聖子は「男子にとって理想の恋人」を演じ、明菜は「自分の宿命的な孤独」を晒した。
聖子の強さと明菜のすごさ。生き様、楽曲から多面的に比較検証。
聖子のデビューは「裸足の季節」(1980年)である。デビュー曲は資生堂の商品「エクボ」のタイアップで、本人にはエクボがなかったので顔出しはなかった。しかし返ってそれが視聴者の興味を引き、「あの伸びのある声の主は?」と問い合わせが殺到した。そして次に出した「青い珊瑚礁」はザ・ベストテン(TBS系)で初登場8位、翌週に1位と、トップアイドルの仲間入りをした。
中森明菜は1年遅れて1981年「スローモーション」デビューした。来生たかお・えつこ姉弟の作で、作品の完成度は非常に高かったが、新人にしては地味な歌だったので今一つ売れなかった。しかし次の「ツッパリ少女の恋愛」を扱った「少女A」はオリコン週間チャート1位を獲得、併せてアルバム「変奏曲」も74万枚の大ヒットを記録し、「シングルもアルバムもファンに支持される、世界観を持ったアイドル」としてやっはりトップアイドルの1人になった。
その後は常にトップを争い、聖子はオリコン週間シングルチャートを24曲続けて1位、明菜は年間オリコンシングルチャートの1位を4回獲得など、記録の面でも競い合った。聖子は「明菜はライバルだ」と明言したが、明菜は「聖子のアルバムを持っている」と競争関係にあることを否定した。聖子は1番のアイドルでいること、明菜は自分の納得できる曲を歌うことが重要だったのである。
2人の違いは、仕事への対し方にも現れた。
聖子はその「可愛さを狙った路線」を「ぶりっ子」と揶揄的に言われたが、ラジオ番組の対談などでその話になっても「私、ぶりっ子で~す」と自分の売り込みに使ってしまう「強さ」があった。だからフリルのついた可愛い衣装も、少女の邪気のない歌も、彼女の実像や実感とは異なっていても、しっかり歌いこなした。そして売り出し方の全てをスタッフに任せて、自分はその上にうまく乗ったのである。
一方明菜はデビュー時から「この歌は嫌だ」「この服は自分らしくない」「自分は水着で売りたくない」とあらゆる点で自己主張し、その結果「わがまま」と批判された。しかしデビュー段階から「自分の価値基準」をしっかり持ち、周囲と戦ってでもそれを通す、そして結果的にそれが明菜のブランディングになっていく、ということが明菜の「すごさ」だった。
このように松田聖子は世間の揶揄も自分の人気にうまく使い、スタッフの戦略にも上手に乗り、神田正輝とも結婚し派手な披露宴を挙行し、子供を作りながら歌手活動を続けてる「ママドル」の元祖になる、など非常に巧みに人生を渡り、自分の欲しいものは全て獲得した。
明菜は「周囲の大人」と戦いながら自分の考える「中森明菜はこうあるべき」というブランドを守っていたが、戦うたびに本当はセンシティブな明菜の神経はボロボロになった。また山口百恵に憧れていて結婚と出産を強く願っていたが、近藤真彦に手ひどく裏切られてから誰も信じられなくなり、「仕事の栄光」は聖子以上に得ることができたが個人的な幸福は手のひらから零れ落ちて行った。
この2人の「強さ」と「すごさ」の違いの根本要因の1つは生まれ育ちである。そして聖子の「人が選んだ」曲、明菜の「自分で選んだ」曲からもその「強さ」と「すごさ」の違いを発見することができる。詳細は「戦う女と媚び倒す女」でぜひお読みいただきたい。
聖子の批評に負けないで「理想の恋人像」になりきる「強さ」
明菜の自分の意見を押し通して「自分らしい曲」を歌う「すごさ」
あなたはどちらのタイプ?
明菜の自分の意見を押し通して「自分らしい曲」を歌う「すごさ」
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明菜は自分自身の「誰にも癒せない孤独」をぶつけた
明菜は「少女A」以降、「ツッパリ少女の恋愛」の曲と「純情な少女の恋愛」の曲の2つ系統を交互に歌った。それは「明菜像」の偏りを避けるためであった。
更にもう1点、明菜自身は「周囲と戦う」部分と「恋人への一途」な部分という二面性を持っているということが日頃の言動から知られており、それが「ツンデレ」としてアニメやマンガの主人公として描かれるほど「新しい魅力的なキャラクター」化していたために、その「ツンデレ」の明菜を推していく戦略もあったのである。
さらに明菜自身、10代の頃は「好き」「嫌い」という言い方でしか意思表示ができなかったのに対し、井上陽水を自ら起用した「飾りじゃないのよ涙は」によって、独自の孤独感をロック歌手のテイストで歌いヒットさせて以降、きちんと「指示」「意見交換」として意思表示できるようになり、完全なセルフプロデュースに移った。
それ以降は曲のテーマも自分の「誰にも癒せない孤独」に絞り、たとえば「恋もdance dance danceほど 夢中になれない なんて淋しい」(「DESIRE」)と表されるようなものになった。まさに明菜は自分を削って曲を作り、歌ったのである。
なぜ「誰にも癒せない孤独」を抱えていたのか、はまさに明菜の育てられ方が多大な影響を与えているので、詳細をぜひ本書を読んで欲しい。
この「誰にも癒せない孤独の曲」が、アイドルはターゲットではなかった「必死に働き、疲弊している働く大人の女性」をファンにし、「ミ・アモーレ」「DESIRE」の2年連続レコード大賞受賞につながったのである。 -
聖子は「気弱な男性にとっての理想的な恋人」になりきった
聖子は、プロデューサーが選んだ多様な作家の曲を歌いこなした。
松任谷由実、松本隆、大村雅朗、財津和夫、佐野元春、尾崎亜美、大江千里という超一流の顔ぶれであったが、曲の基本的テーマは全て変わらず、自分から積極的に行動に移れない気の弱い男性にもどかしさを覚えている女性の気持ちを代弁したものである。
しかしその曲たちと聖子の実像は乖離している。聖子は自分の意思を現実のものにすることについて非常に積極的で、デビュー前にはCSBソニーのディレクターに、歌手になるために家を出ると何度も手紙を出したり、プロダクションの選考を通過すると指示された時期よりも半年早く上京するなど実に自分の目標を実現させるためには積極的だった。
恋愛面でも独身、既婚関係なく、多くの男性と浮名を流した。
つまり「曲の中の聖子」と「現実の聖子」は全く違っていて、「歌手」聖子は世の中の奥手の男性にとっての理想的な女性になりきっていたのである。この詳しい曲の分析は恐らく初の試みのはずなので、ぜひ本書で読んでいただきたい。
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「強い」聖子と「すごい」明菜がリンクするリアルの世界
聖子は批判さえ力にしてスタッフの戦略に従い、周囲と良好な関係性を作りながら、自分の欲しいもの全てを獲得した。
明菜は誰にも譲れない自分らしさを守るために他者と戦い、歌手としての自分の理想の姿を突きとおした。しかしその都度の戦い、焦燥、孤独のために心身ともに激しく疲弊してしまった。
これがこの本の著者が考える「強い」聖子像、「すごい」明菜像である。
しかし実はリアル社会にもこの2人と見事にリンクする女性像がある。
それが、1986年に施行された「男女雇用機会均等法」で生まれた「総合職」「一般職」である。「総合職」は男性だけの仕事だった分野に進出し、「一般職」はそれ以前から存在した「補助業務」を行った。従って総合職は性別無関係に同じ処遇体系なので、成績によって出世の道があった。一方で一般職は処遇も頭打ちで、仕事もずっと補助的なもので重要度な案件には参加できなかった。
女性の総合職は評価されるために、男性以上の成績を出さなければならなかった。同等では評価ダメだった。しかしこの仕組みは結局のところ「男性中心の世界に、やる気があるなら『男性になったつもりで』入ってもいいよ」というだけで、女性特有の長所や特性を考慮したものではなかった。そのため総合職の女性は、心身ともにボロボロになり、明菜が戦って疲弊したように身体や心を壊して、戦線から脱落していった。
一般職は出世ではなく将来性のある男性と結婚することのために出社してきており、将来は夫に尽くす専業主婦になることを目指した。結婚後に仕事をするにしてもそおれは趣味を生かした優雅なもの、というイメージだった。しかし実際に専業主婦になれても、相手の給与以上に出費がかさんだり、子供の学費に多額のお金が必要だったり、自宅を買って大きな住宅ローンを抱えたりしたため、パートタイマーなどで働くしかなかった。その内容も処遇も一般職の時よりさらに劣っており、彼女たちは自分の計画と違うと嘆くのだった。
つまり聖子的な幸せな結婚、優雅な生活、半分趣味の仕事という聖子的な人生設計は実現できず、ほとんどが必死で働く兼業主婦にならざるを得なかった。一般職は一般職で挫折の道に至る例がほとんどだったのである。
「戦う女と媚び倒す女」は「総合職」「一般職」の人生に挫折する姿と、2人のトップアイドルを生き方を重ねながら、現代の女性の人生の本質を解析している。
聖子と明菜の本質に興味を持った方、その2人と総合職、一般職がどのようにつながるのか興味を見った方は、ぜひご一読ください
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2022年4月 |
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